
骨密度の指摘と奥歯のぐらつきが重なった時期に
健診で骨密度の低下を指摘され、内科で骨粗しょう症の薬の説明を受けた。その直後から、前から気になっていた奥歯のぐらつきが強くなってきた。薬が抜歯に影響するのか、内科と歯科のどちらに先に相談すればよいのか、迷う方は少なくありません。この記事では、全身の骨密度と顎の骨の違い、歯科に伝えたい薬の情報、治療の選び方を順に整理します。
この記事の要点まとめ
- 健診の骨密度の数値だけでは顎の骨の状態は判断できず、歯周病や噛み合わせを歯科で確認します。
- 骨粗しょう症の薬は名前や使用歴を歯科に伝え、抜歯やインプラントは処方医と連携して検討します。
- 歯を残す治療、入れ歯、インプラントは口腔内の状態や費用、通院負担、噛み心地を踏まえて選びます。
奥歯を残せるか:骨密度の数値より先に調べたいこと

奥歯を残せるかどうかは、健診の骨密度の数値だけでは決まりません。判断の出発点になるのは、歯ぐきと、歯を支える骨を歯科で直接確かめることです。
全身の骨密度が低いと、顎の骨も弱い?
閉経を境にエストロゲンが低下し、骨粗しょう症が増加します1。そのため骨粗しょう症には注意が必要です。ただ、健診で測るのは腰椎や大腿骨、かかとなど別の部位です。その数値が、奥歯を支える歯槽骨(歯の根を囲む骨)の状態をそのまま示すわけではありません。
歯科を受診する際は、結果の数値と一緒に「どこを測ったか」も伝えていただくと、話を進めやすくなります。
ぐらつく奥歯で調べる歯ぐき・噛み合わせ・顎の骨
ぐらつきの原因として多いのは歯周病です。歯科では主に次の点を確かめます。
- 歯周ポケット(歯と歯ぐきの間の溝)の深さと出血
- 歯の揺れの程度と、噛んだときに強く当たる箇所
- レントゲンで見た、歯の周りの骨の減り方
骨を立体的に確認したいときは歯科用CTを使うこともあります。撮影が必要かどうかは、診察の結果をみて判断します。骨密度の低下だけを原因と決めつけず、いくつかの情報を重ねて見ていきます。
骨密度やぐらつきの背景に、別の病気もある?
評価の中心は歯周病です。ただし、内科で別の骨の病気を指摘されている場合は、歯科にも共有してください。たとえば原発性副甲状腺機能亢進症(ホルモンの働きで骨からカルシウムが溶け出しやすくなる病気)については、歯周組織など口腔の状態を調べた研究もあります2。
とはいえ、歯のぐらつきだけから病名を推し量ることはできません。気になる検査結果があれば、そのままお持ちください。
ポイント
骨密度の数値と測定部位を伝え、歯周病の検査結果と合わせて、歯を残せるかを判断していきます。
抜歯やインプラントを考える前に:薬と処置の判断軸
骨粗しょう症の薬を使っていても、抜歯を一律に避けるわけではありません。薬の種類や使い方、お口の状態をそろえたうえで、処置の進め方を決めます。
歯科に伝える薬の名前・開始時期・投与方法
歯科で特に確認したいのは、ビスホスホネート製剤やデノスマブなど、骨が溶けるのを抑える薬です3。お薬手帳をもとに、次の点を伝えてください。
- 薬の名前
- 飲み薬か注射か、どのくらいの間隔で使うか
- 使い始めた時期と、これまでの使用歴
内科で説明を受けたばかりで、まだ使い始めていない場合は、その予定も教えてください。歯科治療をどの順番で進めるか考える材料になります。
薬を使っていると抜歯できない?顎骨壊死との関係
これらの薬を使って抜歯などを受ける場合、顎の骨が壊死する「薬剤関連顎骨壊死」のリスクについて医師にご相談ください。骨粗しょう症の治療で使う場合も、リスクは一人ひとり異なります。ただ、起こりやすさは薬の種類や量、使っている期間によって変わります3。飲み薬のビスホスホネート製剤を使っている方の抜歯でも、この合併症を踏まえた検討が求められています4。
抜歯で気をつける点は、年齢だけで決まるものではありません。50代でも、服薬歴と歯周病の進み具合を確かめてから判断します。
内科への確認が必要になるのはどんなとき?
内科への確認が必要になるのは、薬の名前や開始時期がはっきりしない場合と、抜歯やインプラントを検討する場合です。このとき歯科から処方医へ、治療の予定と薬の使用状況を問い合わせます。医科と歯科が互いに照会するこの手続きを「対診」と呼びます。
薬を休むかどうかは処方医と歯科医師が話し合って決めます。ご自身の判断で中断しないでください。
抜歯を決める前に、歯を残す治療はできる?
炎症が落ち着き、支える骨がある程度残っていれば、歯周病の治療や噛み合わせの調整で様子をみられる場合があります。反対に、骨が大きく減って揺れが強いと、残すのが難しいこともあります。
どちらに当たるかは、検査を経てはじめてわかります。抜歯を急いで決める必要はありません。診察結果と「これからどんな食事や暮らしを続けたいか」をじっくり照らし合わせて決めていきましょう。
通院の負担・費用・噛み心地から治療を選ぶ

治療法は、歯の状態に加えて、仕事やご家族の付き添いと両立できる通い方、費用、噛み心地の好みを踏まえて選びます。
歯を残す治療・入れ歯・インプラントをどう見分ける?
| 選択肢 | 前提となる歯の状態 | 外科処置 | 噛み心地・見た目 | 通院の見通し |
|---|---|---|---|---|
| 歯を残す治療 | 支える骨と歯ぐきがある程度残っている | 原則なし(歯周外科を検討する場合あり) | ご自身の歯を使い続ける | 治療後も定期的な管理が続く |
| 抜歯後の入れ歯 | 周囲の歯や顎の形を利用する | 抜歯以外は通常なし | 取り外し式。使いながら調整を重ねる | 作製と調整で複数回 |
| 抜歯後のインプラント | 埋め込める骨の量がある | 顎の骨に埋め込む手術が必要 | 固定式。周りの歯を支えに使わない | 骨となじむまでの期間があり、術後の定期メンテナンスが続く |
骨粗しょう症の薬を使っている場合、抜歯やインプラント手術などの外科処置は、一人ひとり個別の検討が必要です34。インプラントは自由診療(公的医療保険の適用外)です。手術後の腫れや痛み、インプラント周りの歯ぐきの炎症には個人差があるため、治療後の定期的なメンテナンスについて医師にご相談ください。
費用と通院回数、治療前に何を確認する?
治療前に確かめておきたいのは、保険が使える範囲、費用、治療期間、処置の後に仕事を休む必要があるかどうかの4点です。通院回数は歯の状態で大きく変わります。平日と土曜のどちらに通えそうか、付き添いの方がいる曜日も伝えると、予定を組みやすくなります。
インプラントは自由診療のため、費用は医療機関ごとに設定されています。一般的な相場は、検査・手術・人工の歯を含めて1本あたり30万〜50万円程度とされ、骨が足りず骨を補う処置が必要な場合は別に費用がかかることがあります。これは一般的な相場であり、当院の費用ではありません。当院の費用は、骨の状態を診察したうえでご案内します。見積もりを受け取ったら、検査・手術・人工の歯の費用が総額に含まれているか、骨を補う処置が必要な場合にどのくらい別の費用がかかるかを確かめておくと、費用を把握しやすくなります。
治療期間には、インプラントが骨となじむまでの期間が含まれます。手術から人工の歯を装着するまでの期間や、骨を補う処置が必要な場合の期間には個人差があります。通院は、検査・手術・人工の歯の型取りや装着などで複数回必要ですが、回数は歯の状態によって異なります。これらは一人ひとり異なり、当院の治療期間や通院回数を示すものではありません。治療後も定期メンテナンスのための通院が続き、その費用もかかります。当院での治療期間や通院回数は、骨の状態を診察したうえでご案内します。
歯医者に相談するとき、何を持っていく?
初診には、健診の骨密度の結果とお薬手帳をお持ちください。この2つがあると、話がぐっと具体的になります。そのうえで「歯科用CTを撮る必要はあるか」「内科への問い合わせは要るか」を尋ねてみてください。
治療前や治療中のカウンセリングでは、お口の状態や必要な治療について説明を受けることが大切です。気になる点があれば、途中でも遠慮なく質問してください。
歯を残したい方、入れ歯を考えたい方、手術に抵抗があってもインプラントが気になる方。どの希望も、相談の出発点として伝えてみてください。
ポイント
次の受診では健診結果とお薬手帳をそろえ、「どんな食事を続けたいか」も一言添えてみてください。
よくある質問
Q1. 閉経後の女性は骨粗しょう症になりやすいのですか?
A. 閉経後は骨を守る働きのある女性ホルモンが減るため、骨量が落ちやすくなります。健診で低下を指摘された場合は、内科で詳しい検査や治療の必要性を確認してください。
Q2. 50代女性の骨密度の平均値はどのくらいですか?
A. 骨密度の結果は、若い世代の平均値と比べた割合(YAM値)や同年代の数値と照らし合わせて示されることが多く、測定部位や機器によっても数値が変わります。ご自身の結果の見方は、検査を受けた医療機関で確認してください。歯科には数値と測定部位をそのままお伝えいただければ十分です。
Q3. 50代からでも骨密度を高めることはできますか?
A. カルシウムの摂取や、ビタミンDを体内で合成するための日光浴に加え、ウォーキングや筋力トレーニングなど骨に刺激が加わる運動が推奨されています5。薬による治療が必要かどうかは医師が判断しますので、内科にご相談ください。
Q4. 50代女性で歯を失うことはよくあるのですか?
A. 50代は、歯周病が進んで歯がぐらつき始める方が増えてくる年代です。ぐらつきに気づいた段階で歯周病の検査を受けると、歯を残せるかを含めて選択肢を検討しやすくなります。
Q5. 内科と歯科、どちらに先に相談すればよいですか?
A. 奥歯のぐらつきが気になっているなら、薬を始める前後にかかわらず、歯科で今のお口の状態を診てもらうことをおすすめします。薬の情報はお薬手帳で歯科へ伝え、必要に応じて歯科から処方医へ問い合わせます。薬を始める予定がある場合も、その予定を歯科と内科の両方にお伝えください。
参考文献
1. 骨粗鬆症(婦人科) | KOMPAS – 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト. https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000043/
2. Cardoso FB, Costa FW, Soares CE, et al. Oral health aspects in sporadic and familial primary hyperparathyroidism. Journal of Clinical and Experimental Dentistry. 2022. PMID: 35582348 / DOI: 10.4317/jced.59527
3. Beth-Tasdogan NH, Mayer B, Hussein H, et al. Interventions for managing medication-related osteonecrosis of the jaw. The Cochrane Database of Systematic Reviews. 2022. PMID: 35866376 / DOI: 10.1002/14651858.CD012432.pub3
4. Dioguardi M, Di Cosola M, Copelli C, et al. Oral bisphosphonate-induced osteonecrosis complications in patients undergoing tooth extraction: a systematic review and literature updates. European Review for Medical and Pharmacological Sciences. 2023. PMID: 37458653 / DOI: 10.26355/eurrev_202307_32996
5. 骨粗鬆症予防のための運動 -骨に刺激が加わる運動を | 生活習慣病などの情報(e-ヘルスネット) | 健康日本21アクション支援システム Webサイト. https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-05-001.html
平成18年3月 九州大学歯学部卒業
福岡市にて勤務
横浜市にて勤務
平成27年12月 開業
ITI日本支部公認インプラントスペシャリスト
日本歯周病学会 認定医
介護支援専門員
【所属学会】
日本口腔インプラント学会
インプラントスタディグループ松山
日本矯正歯科学会
日本歯周病学会
日本顎咬合学会
四国SJCD
JACID
日本臨床歯周病学会
日本顕微鏡歯科学会
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